これは私がイギリスに移住してから半年も経っていない頃のことです。
不動産屋の物件管理部に勤めていた私は、日本ではペーパードライバーだったのに社有車に乗って主に北ロンドンの物件を転々と移動する日々を過ごしていました。
その日は夕方にボイラー不具合の確認が入り、暗くなりかけた道を運転して物件に向かいました。
物件自体は地下鉄の駅に隣接していて比較的新しい高級マンションなんですが、駅の裏あたりはカウンシルハウスが立ち並ぶ、あんまり見た目の治安がよろしくないエリアでした。
貧富が隣接しているのがロンドンですし。
マンションの駐車場に停めさせてもらおうと、インターホンでコンシェルジェさんにお願いをしたんですが、来客用スペースが今満車だからごめんねー、とあっさり断られ、仕方ないので駅裏の公共駐車場に車を停めてから徒歩で物件へ向かいました。
修理自体はプロの人にお任せして、私は奥様に注意事項を伝えてあれこれして小一時間で終了しました。
晩秋の日は短く、外はもう真っ暗ですよ。
時間的には帰宅ラッシュが始まってる頃で、事務所に戻れるのは定時過ぎだろうなぁ、今日も残業だなぁ、などと思いながら車を停めていた駐車場へ歩いていると、突然「バーーーン!!」と破裂音が鳴り響きました。
それに呼応するかのように「パン!ババン!!」と破裂音が続き、しかもカウンシルハウスとマンションにこだましてどこから音がしているのかの予想もつきません。
え?ハリウッド映画??
ここはロンドンで、ブロンクスとかゲットーとかじゃないよね??
もう訳がわかんないので頭を抱えて姿勢を低くして、とにかく車に飛び乗ってその場を立ち去りました。
道には人通りもなく、空包を打ってるのか、どこかの家の中で惨劇が起きてるのか、なんだかもう思考が暴走して、とにかくその場を立ち去りたくて渋滞をいつもより恨めしく思いながらほうほうの体で事務所に到着しました。
定時を過ぎても残っているのは日本人ばかりで、さっき体験したことを伝えて「ロンドン危ない、すんごい怖い」と涙目になっていたら、同じ物件管理部のM氏とS女史が爆笑し始めました。
なんだよ!すんごい怖かったんだよ!?とムキになると、M氏が「しゃーくちゃん知らなかったんだろうけど、それ、ドュワリってインドのお祭りであげてる花火で拳銃じゃないから」と教えてくれました。
Oh…オマツリデスカ…メデタイデスネ…
翌日にはもうイギリス人社員にも話が広まっていて、それからしばらくの間、私のあだ名は「Duck」(屈め)になりましたとさ。
↓私にお似合いなヤツ↓